【インタビュー】

酒井竹雄(学習院初等科長)

「質実剛健」「自重互敬」
基礎・基本を教えられてはじめて、子どもはよい方向に向かう
教職員のチーム力によって高い学力に結びつけます

――学習院は多くの皇族方が入学される特別な学校という印象があります。

酒井 宮さま方が在学されていても意識しないといえばうそになりますが、クラスでの特別扱いは何もありません。たしかに学習院の成り立ちに特色はあります。江戸時代末期に京都で開講された時は、公家の子弟のための学校でした。それが、明治10年(1877)に東京・神田に開校した時は、華族のための私立学校になりました。その後、明治17年には宮内省管轄の官立(国立)の学校になったという経緯があります。

 現在のかたちになったのは、昭和22年(1947)に女子学習院を統合してからです。改めて私立学校としてスタートしました。校風が大きく変わったかといえばそうでもありません。学習院は官立時代からオーソドックスな教育を行っていました。ですから、その名残もあってか他の私立学校と比べれば公立校に近い性格を持っていると思います。私は40年前に学習院初等科の教員として着任したのですが、その時にも私立らしさより国立や公立のような雰囲気を持った学校という印象を持ちました。

――伝統に貫かれている精神はどのようなものでしょう。

酒井 一つは「質実剛健」です。男女とも黒革のランドセル、男子は詰襟に膝上丈のズボン、女子はセーラー服の制服姿で授業に臨むのが基本ですし、男子の赤い下帯姿(女子は指導帯)で知られる沼津海浜教育の伝統は今も続いています。給食は食堂で作法正しくいただいて礼儀作法を身につけます。

 質実剛健の精神を、私は「質素で元気に過ごす」という言葉に代えて大切にしています。私立の小学校というと、とかく贅沢で華美という目で見られがちですが、保護者の方も質素な生活が子どもの教育のためになることを念頭に置いていただきたいと思います。

 もう一つは「自重互敬」です。

 これは昭和21年から20年間にわたって学習院院長をされた18代院長の安倍能成先生の言葉で、写真は安倍先生直筆の額です。「自分を大切にし、またお互いを敬い思いやりを持ちなさい」という意味です。初等科の子どもたちには、安倍先生はよく「正直であれ」ともおっしゃっていました。自分にも他の人に対しても正直であることが大事だと教えられたのです。

 たとえば子どもによくない行いがあったら、それをきちんと認識させて反省させることが大切です。この時こそ善悪を教える時です。

 善悪は教えなければいけないことなのです。そこでごまかさない勇気が親にも必要です。

 基礎・基本は、人間の育成においても、学習においても大切です。

――入学に備えてどんな準備を行ったらよいでしょうか。

酒井 小学生になったら自ら学んでいくことになりますから、積極的に取り組むこと、友だちと協調して行動できること、朝は「おはようございます」と元気に挨拶をするといったことが大事です。

 入試では、先生の話を聞いて「こうやりましょう」といわれたらそのとおりできるか、「みんなと一緒にやりましょう」といわれたらみんなと仲良く協力して一緒にできるか、といったところを主に観察しています。

 また、日本語が理解できれば国籍は問いません。日本語の理解は、すべての基本であり、入学後もそこからスタートしますから重視しています。在校生には外国籍や保護者のどちらかが外国人のご家庭もいらっしゃいます。

 僅かな時間で行う入試の当落はご縁です。落ちて嘆くのは親のほうで、本人ではないのですから、それがすべてと考えるのはよくありません。

 学習院初等科の入試対策を考えるなら、常日頃、家庭でどんなふうに子どもと過ごしているかが重要です。服を脱いだらきちんと畳む、ハンガーに掛ける、お箸とお茶碗を正しく持って食事をいただく。こういったことはもちろんですが、会話も工夫次第です。

 たとえばレストランに行った時、お父さんとお母さんと子どもの選んだ料理を、三様に比べてみる。そこから観察力や比較の概念が育ちます。

 あるいは「ご飯は6時よ」という時に「いま何時かしら?」とひと言加えます。子どもは時計を見て、「あっ、あと30分遊べる」と計算します。これだけでも計算力、判断力、記憶力が育つのです。親がどう意識して子どもを育てているかが、学校生活でも問われるので、家庭では、日常の生活を大切にした家庭教育をしていただきたいと考えています。

※上記は2016年1月時点(冊子「スクールダイヤモンド2016年新春号」)での情報です。
最新情報は各校のホームページ等でご確認ください。

アーカイブ