給食の時間に触れるほんもの

「初等部では生活そのものが学びです。心のこもった温かくおいしい食事は生きた教材です」と、中村貞雄初等部長は言う。

　青山学院初等部では月・火・水・金は全学年いつものおいしい給食。木曜は、１学年だけはランチョンといって特別の食事をいただく。そのほかの学年は家庭から愛情弁当を持参する。

　ランチョンの目的は食文化を学ぶこと。食堂のテーブルにランチョンマットを敷き、花をかざる。食器も陶器や磁器、塗りのお椀などを使用する。子どもたちも服装を整え、各テーブルに先生を迎えて着席。

「２月の４年生のメニューは、牛ごぼう飯、すまし汁、魚の山椒揚げ、さつまいもと杏の甘煮、春雨の和え物、パンナコッタ。春を感じてもらえればと、ご飯にはセリも少し混ぜ、デザートのパンナコッタにイチゴのソースをかけました。６週間に１度しか回ってこないランチョンを、子どもたちはとても楽しみにしています。給食室としても、吟味した旬の食材を使い、手間も時間もかけて１学年分のランチョンを用意します」と話すのは管理栄養士の秦京子先生。

　スペシャルメニューのなかでも、野菜と牛すね、鶏ガラをコトコト３時間煮込んでとったコンソメスープ、２種の宝石を模したゼリーをひそませたジュエルブラマンジェは、40年変わらぬ定番だ。

「そこに給食スタッフの愛もたっぷり加えられています。子どもたちは目で見て、食べて、味わって、愛を感じます。これこそ教育です」と、中村部長。

給食が育てた初等部の食文化

　初等部の給食は、戦後の１９４６年ころに、子どもたちに提供されたみそ汁１椀に端を発し、年を追って本格化した。１９７０年から木曜ランチョンが始まり、厨房・食堂が増改築されて現在の形になったのが１９８３年。２学年が着席できる広さがあり、木曜以外の曜日は、３年生と５年生、１年生と２年生など学年が混ざり合ってテーブルを囲む。食堂での食事では、デザートの果物は皮や芯がついたまま大皿に盛られ、フルーツナイフが添えられているので、年長の子どもたちがサービスする。

「上の学年がお世話をして、会話をリードします。食事を通じて人と交わります」と言う中村部長に、「会食の経験が『社会人になって役立っています』という卒業生の声を耳にします」と秦先生もうなずく。

　家庭での食生活との連携も忘れない。牛乳が付かない献立の日は、家庭で牛乳を飲むようお願いしている。子どもたちがレシピ希望ノートに名前を書き込んで、レシピを受け取り、家でつくってもらうことも多い。

　食材費は１食あたり４００～５００円かけて、安全でおいしいものを厳選している。「仕入れ先とは長いお付き合いで、子どもたちによいものを食べさせたいと考えてくださるので、私も子どもたちのおいしかったという声を伝えます」（秦先生）

　初等部での食事は、自分で食べられる量を決め、自分が決めた量は必ず食べ切るのが原則。そのうえでお代わりもできる。苦手なものを少しにするのはよいけれど、全くとらないのはいけない。初めてのものでも警戒せずに、みんなと一緒の給食の機会に、まずは一口食べる経験をしてほしいという考えに立つ方針だ。

　総合活動の時間に行うプロジェクト活動の一つに給食プロジェクトがある。メンバーの子どもたちは秦先生の協力を得て、「運動会がんばろうメニュー」や「寒い季節のぽかぽかメニュー」など、みんなに楽しんでもらえるように趣向をこらす。年度末には、６年生はクラスで相談して好きなものを選んで組み合わせ、ベストワン献立を立てて、給食室に注文する企画もある。

「単に好きなものを寄せ集めるのではなく、ちゃんとバランスや組み合わせを考えて献立にしてくるので、これが６年間培った力かなとうれしくなります」（秦先生）

　まさに一皿一皿が生きた教材になっている。