キリスト教精神の享受

「知りたいことはインターネットで検索して調べることができる時代ですが、だからこそ、自分の五感を使って、聴いて、触れるほんものの学びが必要なのです。初等部の教育は、まっさらなときにほんものに触れて、『感じる』ことから始まります」と中村貞雄初等部長はいう。

　青山学院の基本にあるキリスト教精神も、入学のときから朝の礼拝やクリスマス・イースターなどの宗教行事、また両親への感謝を伝える会などの機会を通して、体で感じとっていく。讃美歌を歌ったり、飾り物をつくったり、劇を演じたりすることで、言葉で知る以上に感得する。

　授業でも「ほんもの」がさまざまな機会に登場する。たとえば、国語の授業では『スーホの白い馬』の朗読を、馬頭琴の演奏とともに鑑賞する。愛馬を失ったスーホの悲しみが、馬頭琴の音色とともに子どもたちの胸に迫ったことだろう。

　校内にあるくすのきホール内で、ドローンも飛ばした。各自タブレット端末を手に指導を受けてプログラミングに取り組んだ後、実際に操作。あがる、進む、回る。プログラム通りに動くだろうかとわくわくする体験から、新しい学びが始まる。

「将来、やりたいことができたときや勉強する必要が生じたときに、それに取り組む基礎学力は必要です。しかし、将来どのような時代になり、どの道に進むことになっても、人間としての豊かな感性は必ず役に立ちます」（中村部長）

図工室はパフォーマンスの場所

　図工の授業を例にとるとよくわかる。図工は２コマ連続（90分）で行われる。教員３人で、２学年ずつ受け持ち、それに助手の先生が加わる。いずれも彫刻、油絵、版画、デザインの創作活動を行う専門家だ。主任の飯倉穂高先生はいう。

「図工室は表現の場です。作品に出来不出来はありません。パフォーマンスをして、何かを発見したら、すばらしいこと」

　生きたアメリカザリガニを床に放して写生をする授業では、最初の時間は触るだけ。初めは触れなかった子どもも時間をかけて、ついにはぎゅっと握る。

「ぎゅっと握った感動が大きかったのでしょう。胴体を力を込めて描くあまり、大きなハサミを忘れてしまう子が一人や二人ではありません。『ハサミどうしたの？』と聞くとハッと我に返ってハサミの存在に気づく。でも、私はハサミを描きなさいとはいいません」。

　感じたことのリアルを描くことが大切だと飯倉先生は考えている。

　劇の上演も図工科の学習だ。毎年の学習発表会で演じる指人形劇は、国語科の授業で台本をつくり、図工科の授業で指人形や小道具・背景の制作と演技練習を行う。

　絵の具はもとより工具や素材はすべて専門家が使うようなものをそろえ、人体標本、動物の骨や化石などまで並んでいる。

　設置された大画面で自分たちの作品鑑賞を行い、年に１回は各学年それぞれに美術館に出かける。学期末にはプリントを使って振り返りも行う。自分の作品や技術力について言語化するという高度な学びだ。