自然に触れ地域に親しむ

　大通りをそれて静かな道を進み、聖心女子学院の正門に一歩足を踏み入れると、広い空と変化に富んだ緑が広がっている。

　聖心の生活科では学校の環境を生かした取り組みをしている。入学するとすぐ、校内の木々の中から一つを選んで「私の木」を決め、四季の変化とともに姿を変える様子を観察し記録する。緑豊かな校内には大きな木々がたくさんある。「私の木」の学習は1年間だけだが、上級生になっても、卒業してからも、自分の成長に重なる大事な思い出となっている。

　1年生の「お仕事チャレンジ」は、仕事の役割と大切さを学ぶプログラム。まず、校内での清掃や修繕、事務などの仕事を見学し、仕事の役割を知り、自分も家庭での仕事を受け持つ。お風呂やトイレの掃除、配膳、お皿洗いなどの一つを選び、〝若葉マーク〟でスタートし、1か月後にクラスで、お互いに報告と意見交換を行う。工夫のアドバイスや、問題点の解決、改善策をみんなで考えて再開、最後は〝プロ〟になる。

　ふだんのお手伝いだったことを仕事としてとらえる取組みは、研究テーマを探究する学びの始まりとなる。

　2年生は、白金北里通りの商店街を訪ねて仕事を見学する。訪問したお店について発表し、みんなで話し合ってお店の工夫を発見し、さまざまな角度から考える。訪問したお店には必ずお礼の手紙を送るので、店内に飾っているお店もめずらしくない。地域との交流は社会性を養い、グローバルな視野への第一歩となる。

知性を磨く宗教の学び

　実際に体験してみんなで考える学びは、初等科・中等科・高等科の12年間すべてに共通する。

　初・中・高を束ねる校長の大山江理子先生は、そこに教育方針〈魂を育てる。知性を磨く。実行力を養う。〉の理念があることを語る。

「これは三つの方針ではなく、1年生から毎年積み重ねるひとつながりの成長を指しています。魂も知性も深いことばなので、心、考える力と置き換えて、一人の人間としてしっかりした心をもって、頭を働かせてよく考え、行動を起こしていく力を付けると理解していただけばよいと思います。」

　こうした学びは何のためにあるのだろうという問いの答えは明快だ。

「聖心女子学院には、自分は大事な存在であり、周りの人たちも大事であり、さらには人間全体、世界全体を思うキリスト教の考え方があります。人間のことばだけではなく、自分の心は何を感じているのかを確かめ、多くの知見を学びながら考え、考えた末に行動を起こす。それが自分らしい生き方というものではないでしょうか。」

　大山先生は卒業を前にした12年生に、宗教を学んでどんな学びを得たか問いかけたと言う。

　どの回答にもほぼ二つの要素があり、キリスト教精神をだんだん理解して開かれた心をもって人のために行動するようになったというものと、ものの考え方の土台ができてものごとを判断する基準になったというものであった。

「1年生のころはそんなところへ自分たちが行きつくとも知らず、お祈りをし聖書の話を聞いていた子どもたちが、自分の価値観を形成し、主体性をもつことは驚きであり喜びです。」

　宗教の時間が取り上げるものはカトリックの教え以外にも哲学や歴史、社会問題など幅広い。答えのない問いにたくさん出会い、自分と異なる意見をどう聴いて、どう判断したらよいのか考え、現実的な「生きる力」を身につけていく。聖心の宗教教育は深く、実際性を養うものとなっている。

「私たちは、今がどこに向かっていくのか、今何が大切なことなのかを真剣に考えつつ、一人ひとりの力を未来に向けて伸ばします。学校の環境や子どもたちの様子から学院の雰囲気を感じとってください。」と大山先生は話を結んだ。