保護者が学校を選ぶことのできる私立小学校では、家庭と学校が同じ教育方針や方向性を持っていることが大切になる。
卒業までの6年間、子どもの成長や発達に、家庭と共に寄り添い見守っていく学校を選ぶために、何をポイントにしたらいいだろうか。
全国に私立小学校は240校ある。ここでは、首都圏の私立小学校受験を想定して、身体・心・知力がバランスよく成長することを願い、知名度や合格率に惑わされず、わが家わが子にぴったりの学校選びについて考えてみたい。
信頼できる情報を選択する
私立小学校への入学を予定している家庭では、相性のいい学校を探そうと検討しているだろう。子どもと保護者と学校、三者が一緒に学び育つところが小学校である。学校へ我が子をすべてお任せするのではなく、保護者も一緒に協力する意識を持って、希望校を選びたい。
小学校受験の情報はいろいろなところで発信されている。コロナ禍が落ち着けば、中止されていた私立小学校フェアも開催されるようになるだろう。一カ所で多くの学校のパンフレットが入手できるし、個々に学校の先生から話を聞くこともできる。
塾に通っていると、「お子さんにはこの学校がいい」と助言されることもある。とはいえ、ペーパーテストの成績がよいから「この学校を」と勧める場合もあり得るということを頭の隅に置いておきたい。
首都圏には私立小学校数が多く、交通機関も発達しているので広範囲の選択肢がある。入学後の日常の学校生活を考えて、冷静に検討することが肝要だ。
最も信頼できるのは、学校から発信されている情報と、保護者自身が実際に学校に入った時に感じた気持ちや感覚だ。なかなか手間と時間がかかることだが、信頼できる情報と自分の感覚で得た印象を尊重して、学校選びを進めることが大切である。
私立学校はそれぞれの建学の精神や教育理念のもとに創立されている。学校の理念が家庭の教育観の方向性と同じであることが、学校・家庭・子どもの良い関係を生む。
理念や精神は学校の土台にあり、子どもたちは毎日をその環境で過ごす。保護者は同じ価値観を共感するものがあってこそ、学校と家庭の間によい協力関係が築かれる。
理念や目標には、目指す子ども像、子どもに求めている資質などが短い言葉で示されているが、より深く、具体的に理念の意味や特色を知るためには、創立者の著作や言葉、人物像を知ることも役に立つ。学校の歴史にも教育に取り組む学校の姿勢を知ることができる。沿革を辿ると、学校設立時の目的、めざす理想、社会貢献なども見えてくる。大学系列校では、学園全体のホームページ内にまとめて掲載されていることもある。
校内の雰囲気や第一印象も、学校と家庭の相性を判断する重要なカギになる。子どもがのびのびとやっていけること、保護者にとっても心地よいことを感じ取るためには、実際に訪問するのが一番。
「ぜひ学校説明会に参加して、実際に校内を見て雰囲気を感じてほしい」と、どこの学校も呼びかけている。学校に足を運ぶ時間も手間もかかるが、パンフレットやホームページでは得られない空気感が伝わってくる。学校を訪問した時に意識する点と見るべきところは〈表1〉を参考に、予め予定しておきたい。
学校説明会は、全体のお話し(教育理念、学習内容、行事等)、校内見学、授業見学などが実施される。先生と個人的に面談ができる場が設けられていたら、ぜひ利用したい。そのためにも、事前に知りたいこと、相談したいことを考えて出かけたい。
文化祭や体育祭を公開する学校もある。子どもたちの作品や演技からは、子どもたちの様子や先生方の人柄も感じとれる。街中で見かける子どもたちや保護者からも、自分と肌が合うかどうかを感じ取れるかもしれない。
文部科学省の学習指導要領には、教育課程(カリキュラム)の基準として、教科ごとに目標、内容、実践などを詳細に解説している。学習指導要領は文科省のサイトから総則編、国語編、社会編、算数編等々のpdf〈※〉をダウンロードできる。
学年別の年間授業時数の標準も定めているので、私立小学校はそれに準拠して、独自の学習カリキュラムを展開している。カリキュラムからは、学校が何に力を入れているかが見える。
※学習指導要領各教科編pdf
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm
時間割からはどの科目にどれほど力をいれているかがわかる。学年ごとの授業時間数で、学習量も見える。
たとえば国語科のなかで作文や読書あるいは図書の時間を週1に設けたり、授業時数の多い低学年では書き方の時間を設けるなど。英語に力を入れて、1年生から英語の授業を行う学校は、私立校ではめずらしくない。しかも、1クラスを2つに分けて少人数授業を行う、2人の先生で指導する学校も多い。外国語として、フランス語の時間も設けて、グローバルな視野を育てることを重視している学校もある。
タブレット端末の活用やクイズの要素を取り入れて理数系の興味を引き出す学校、音楽や図工を多彩に体験できる環境を備えて情操教育に力を入れる学校もある。学力育成と情操教育は表裏一体となってバランスが取れる。
授業に使う教材は、先生の手づくりのほかに、独自の教材として長年制作しているものを文科省の認定教科書と併用している私立小学校もある。
使用している教科は国語、社会、算数、英語などいろいろで、学習に入りやすいように、理解しやすいように工夫されている。授業の進め方も、学年や異学年の合同授業で、子ども同士で学びあうなど、私立だから生まれる楽しさもある。
それだけに、先生たちは日ごろから教育研究を行っていて、教科研究会なども盛んなので、保護者も教え方に固定観念をもたず、新しい指導法を理解して協力することが大切になる。
ほんものに触れることは、感性を育て、興味や可能性を引き出すきっかけにもなる。低学年から本格的な内容の濃い体験をする機会が多いのは、私立小学校の特長となっている。音楽、図工、体育などは専科の教員が担当する専科制を取り、担任の教員も国語、社会、算数、理科などそれぞれ一つの教科に専門性があり、教員になってからも研究をつづけている。
入学して間もない1・2年生は、学校で担任と共に過ごす時間が多いが、高学年になると、専門性の高い教員が授業を受け持つ専科制の体制を整えている学校もある。こうしたことから、学校の特色を知ることができる。
私立小学校は行事が多い。みんなで一つのことに向かって努力し達成する喜びを知る。校外学習や宿泊行事などの楽しい体験をしながら豊かな人間形成をめざす。
6年間の行事から、学校の教育方針に共感できるかどうかも推察できる。また、わが子に適した行事か、子どもの体力や好きなことへの考慮も必要。行事はわが子にとって身体と心、学習面のバランスの取れた学校を選ぶ大きなポイントになる。
海や水泳、スキーや山登りなどの合宿や宿泊行事は2泊から5泊程度。音楽ホールを借り切っての音楽祭や外部施設への校外学習もある。また敷地内での日常的な自然観察会や、学校講堂で探求発表会や特別礼拝などもよく行われている。体育祭や学校をあげての文化祭も盛んだ。
「行事が人をつくる」という言葉をよく聞く。その意図は、行事に向けて子どもたちで話し合い考え、限られた時間内で修正しながら実行し、小さな成功体験をする。その過程で、友だちと意見を出しあったりぶつかったりしながら、学びあう。
集団生活を通して社会性やコミュニケーション力などを身につけ、人としての基礎が形成されていく。小学生の間にたくさん経験をすることの大切さを理解しておきたい。
自然の営み、芸術の美しさ、多くのほんものの体験は情操を育てる。同時に、子どもたちは集団生活を通して心身を鍛え、集中力や発表力、チームワーク、リーダーシップなどを高めていく。
小学校から大学卒業までの16年間のなかで、どこかのタイミングで受験をすることになる。家庭の方針や考え方によって決めることができるので、小学校選びの時点で検討し、よく話し合いをしておきたい。
私立小学校選びの最初の段階で、中学受験をするのか、系列校に内部進学して一貫教育を希望するか、の二つの進路を考えておきたい。
小学校は共学だが中学から女子校になる学校の男子と、小学校に系列の中等教育校がない場合は、進路は公立中学校か私立や国立の受験をすることになる。
こうした学校では、中学受験に協力し、校内の雰囲気も中学受験に前向きなので、子どもにとってはプラスになる。学力サポートを行っている学校もある。
一貫教育を考える場合も、学校選びは必要で、学校側が小学校入学から高校や大学卒業までの、12年間あるいは16年間の在学を前提に一貫教育を進めている学校を選ぶことが大事だ。
さらに、内部進学の難易度も検討する必要がある。系列校進学は成績や生活態度などを含む内規に沿って推薦される。ほぼすべての児童が上にあがる学校や半分程度など、学校によってまちまちなので、事前に状況を知っておく。小学校入学前でも内部進学について学校に直接相談するとよい。
一貫校に在籍をしていても、希望する中学校や難関校をめざして受験することを考えている場合は、中学校受験の時の優遇制度の有無を知っておきたい。内部進学の推薦を保持したまま外部の中学校を受験できる学校と、外部受験した場合は内部進学の推薦は受けられない学校がある。
放課後の時間帯をどう過ごすか。地域から離れた私立小学校へ進学する場合は大きな問題だ。両親とも仕事をもつ家庭にとっても体制を整えておく必要がある。放課後の過ごし方は、低学年、クラブ活動に参加する場合なども含めて、学校のプログラムの違いを知ったうえで考えたい。
放課後については、学校によって考え方が異なる。放課後は、家庭で過ごす時間としてタッチしない学校もあるが、学校側が支援する体制を組み、引き取りのために最終時刻のあと最寄駅まで子どもたちを送ったり、夏休みにも開催する学校もある。
学校のアフタースクールは、希望者を対象に校内に先生やスタッフを配置し、午後6~7時くらいまで開いている。内容や役割は、クラブ活動、宿題や学習サポート、友だちと一緒に遊ぶお預かり、水泳やピアノ、サッカーなどの習い事と大きく分けることができ、学校によって実施の形は異なる。
学習面だけでも、教員や系列校の大学生などがリードする質問タイムや、外部の専門講師が指導するスペシャル授業、塾と同じ受験勉強ができる時間など、学校によりいろいろだ。
運営は学校が直接している場合と、外部委託している場合、その二つが混在している場合がある。委託先や終了時刻、費用などを確認したい。
私立小学校の6年間で必要な費用の項目をあげた〈表2〉を見てほしい。入学してからもいろいろな出費があることがわかる。
学校に納める費用は、入学金など1回だけのものと授業料など毎年かかるものに分けられる。6年間の総額に約500万円は見込まれ、それ以上になる学校もあり、その差は大きい。また、寄付のお願いや任意の学校債もある。
大きな数字になるが、中学受験の塾にかかる費用は首都圏では約200~250万円と言われている。6年間、充実した教育を受ける費用として、相応なものと判断できるかどうか、冷静に考えたい。
入学時の費用 | 入学金、制服代や校内着など学校制定品、施設設備費、施設維持費、寄付など |
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毎年かかる費用 | 授業料、施設維持費、教育充実費、学級費、校外活動費、給食費、父母会費、合宿積立金 など |
そのほかの費用 | 通学費、アフタースクールや放課後支援の費用(希望者)、海外研修費用(希望者) |
学校の理念を知り、家庭の教育方針や育ってほしい人物像と一致する学校を、選ぶポイントをあげてきた。
社会の変化が早くなり、予測がつかない未来を生きるにはどんな力が必要か、また、どんな感覚や感性が人生を彩るのか。
子どもが自分の望む人生を生きるために必要な力を学びとれる学校を、それぞれの学校に足を運びながら、身体と心、知力のバランスを考えながら、じっくり時間をかけて選びたい。
冊子「スクールダイヤモンド2022年春号」より