ICTと英語が推し進める一貫教育

 小中高の一貫校と男女共学化の傾向に教育の変化が見える

変わる公立校の教育

 今、日本の教育に大きな変化が起ころうとしている。明治政府が西洋式の教育制度を参考に大学や中小学の規制を定めたのは1870(明治3)年で、それから7年後に、学習院や立教女学院などの私立校も創立している。

 次の変化は、戦後の1947年の教育基本法施行による、6・3・3・4編制および男女共学化だった。この時の共学化は、ジェンダー意識に基づく公立校の女性への門戸開放の面が強い。しかし、女子校として創立した私学の多くは、女子教育の長所を生かし、共学にはしなかった。

 前の2つのような劇的な変化ではないが、グローバル化とデジタル時代を背景とする、学校制度の多様化・弾力化と文部科学省が推進するGIGAスクール構想は、教育の内面を変えるものかもしれない。

 小中一貫教育の制度化に係る改正学校教育法及び関係政省令・告示が施行された2016年4月以降、市区町村の地域内に設置される小中一貫教育を行う公立の小学校・中学校の校数は年を追って増えている。さらに、東京都は、2022年4月に立川市に都立小中高一貫教育校の開校を準備している。

 生まれた時からITが存在する中で育ったデジタルネイティブの子どもたちには、小学校から英語やICTを学習に採り入れた、12年間の一貫教育が環境も整備しやすく、教育成果をあげると考えられているようだ。

 一貫校に限らず、私立の小学校では、創立時から外国語教育を行っている学校が多く、英語教育はかなり以前から始めている。デジタル教材や機材の導入も迅速だった。

 そうした私立校の中にも、一貫教育や男女共学化の動きが起こっている。

中高の共学化で一貫教育が始まった品川翔英小学校

品川翔英 幼・小・中・高の校舎

 2020年4月に小野学園は、品川翔英幼稚園・小学校・中学校・高等学校と校名を変更し、中・高も女子校から男女共学校へと変わった。品川の地から、英知をもって世界へ飛翔することを願って命名された校名だ。

 小野学園の歴史は古く、1932年創立の家政女学校に始まる。1947年に女学校を中学校・高等学校に替えて女子校として改めて開校。新たに幼稚園と小学校は男女共学として開校した。このため系列校に進学できるのは女子だけだったのだが、今回の変更により、男女共学の小中高一貫教育校に生まれ変わった。

「今の時代の子どもたちに合った教育を考える中で、共学化は自然の流れでした」と品川翔英幼稚園・小学校の園長・校長を務める小野時英氏は言う。

 小野氏にとって創立者の小野安之助・進子夫妻は祖父母にあたる。家政女学校に続いて洋裁学校も開校したのは、女性が社会で生きていけるように、家庭でも社会でも役立つ技能の習得が必要と考えられた、当時の社会状況を反映している。

「今は違います。性別や国などあらゆる垣根を越えて、誰もが羽ばたいていける時代です」。共学の一貫校になったことで、小中高それぞれの新入生募集の応募者が増えたという。

 約1万2000㎡の敷地に、天然芝のグラウンドを取り巻くように幼小中高それぞれの園舎・校舎があり、芝生は幼稚園生・小学生から高校生まで一緒にコミュニケーションを取る場になっている。中学校・高等学校は2023年3月の完成を予定して新中央校舎を建設中だ。

教育理念に基づく小学校教育

 小学生は児童、中高生は生徒と文部科学省では使い分けている。小中高の前半と後半では、子どもたちには身体的にも精神的にも、成長に著しく変化がある。

 独自の精神をもって建学し、歴史を重ね、小中高あるいは幼稚園から大学までその教育理念を貫く、私学の小学校では、急がずにたくさんのものを見て、聞いて、経験することで感性を養うことを重視している。とくに、体づくりや体験活動、行事、芸術・文化に触れる機会に多くの時間を割いている。

 小中高を1~12学年ととらえて行事や活動が計画される。その中で、子どもたちは上の学年に将来の自分を見たり、下の学年のお手本になったりしながら、リーダーシップを身につけていく。さまざまな年齢の人たちにやさしく見守られて過ごした思い出は、社会人になってから、学校が心のふるさとになっていることに気づかせてくれる。

 学習面でも、カリキュラムを柔軟に組めるので、低学年で学んだことを復習しながら高学年で応用に向かわせたり、行事に結び付けることができる。学習のテキストには、小中高で一貫性をもたせている学校も多い。放課後のクラブ活動や委員会活動では、小学生が中高生に交じって活動する機会がある。

 子どもたちの志向や資質が、これから芽生える小学校時代は、効率を高めて学習を先へ進めるのではなく、多彩で豊かな教育が必要だ。小中高一貫の公立校もできてくるこれからは、人間形成の基礎となる小学校教育のあり方の再確認が求められる。

冊子「スクールダイヤモンド2021年春号」より