ICT活用で楽しく情報技術の力を付ける、
小学校の新たな基礎・基本

「プログラミング」「ICT」そして2021年には「GIGAスクール構想」が加わり、情報教育のキーワードになっている。

 コンピュータの用語は英語の頭文字を取った略語で使われる。IT(Information Technology)は情報技術、I C T(information andcommunications technology)は情報通信技術。訳せば「情報の伝達を行う」作業にコンピュータとネットワークを利用する技術と、おおざっぱに理解できる。

 小学校教育は、常に基礎・基本をしっかり学び、学年が上がっていくに連れて広がる学習の中で繰り返し力を付けてきた。そこにひとつ、ICTが加わった小学校教育が進められている。

論理的思考力とプログラミング

 小学校のプログラミング教育は2020年度から、必修になった。

 文部科学省の『2020年度改訂の新学習指導要領のポイント』では「情報活用能力を、言語能力と同様に『学習の基盤となる資質・能力』と位置付け小・中・高等学校共通のポイント」であると記している。

 学習の基盤となる資質・能力だから、どの教科の学習の中でも情報活用能力が身に付くような学習をしていくことになる。さらに、小学校では、文字入力など基本的な操作を習得する学習活動や、プログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせる指示をするためには論理的思考力が必要であるとも書かれている。

 論理的思考力は、国語でも算数でも体験活動でも、子どもたちはあらゆる場面で活用している「学力」であり、論理的思考力を育てる教育は昔から行われている。

 なぜ、それをわざわざプログラミング的思考力と言ったのだろう。

「小学校のプログラミング教育」の動きは、2016年に文部科学省が「小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」を設置したことに始まる。

 それ以前に外国の教育事例を含め学術的調査を行った上での設置であり、会議の議論は同年にまとめられ、「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」が公表された。この時の議論のまとめの中で「プログラミング的思考とは、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つひとつの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」と説明されている。

 つまり、論理的思考もプログラミング思考も同じ意味なのだが、プログラミングしてコンピュータに指示を出すと、コンピュータは指示通りに動くので、考えた指示で成功する場合と、失敗する場合がそのまま表れる。やり直して成功することができる。

 プログラミング教育の意図するところは、プログラミングを行いながら正しい筋道を見つけていく過程で論理的思考力を付ける学習を奨めている。

学校と家庭に必要なICT環境

「4月からGIGAスクール元年」と、萩生田光一文部科学大臣が「小中学校における一人一台端末環境」計画の前倒しを発表したことは記憶に新しい。

 学校のICT環境づくりについて、新学習指導要領には「各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」とあり、それ以前から「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018年度~2022年度)」を進めてきた。それは、①児童生徒1人1台端末の整備、②1人1台端末の利用を前提とした校内通信ネットワーク環境の整備の支援対策だったが、新型コロナ感染症の流行が長引くなかで、オンライン授業や家庭学習の対策としての側面も生まれている。

 2019年12月に発表された萩生田大臣のメッセージ『子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~』には、「Society5.0 時代に生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムです。」という言葉が見える。「Society 5.0」は狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな人間中心の社会として日本社会の未来を指している。これをもってGIGAスクール構想のすべてとは言えないが、「プログラミングに取り組むことを通じて、児童がおのずとプログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりするといったことは考えられるが、それ自体をねらいとしているのではない」とする文科省の指導を見過ごしてはならない。

 

 プログラミング教育とICTを全国に普及するために、国も地域も民間企業やNPO法人との連携を多く取り入れている。他方、プログラミング教育はすでに「習い事」として注目を集め、学研教育研究所の調査によれば、習い事としてのプログラミングスクールはバスケットボールを抜き、野球に迫るほどの人気となっている。

 特技としてプログラミングが捉えられているのは、IT力を発揮して活躍する新しいビジネスの成長が著しいことも影響している。スキルと経験を活かして、教育界に貢献する現場に取材した、下の特集記事(上野朝大氏へのインタビュー)は、プログラミング教育の実際を教えてくれる。

冊子「スクールダイヤモンド2021年春号」より