ICT(Information and Communication Technology)活用で
小学校の学びが変わる

パソコン、タブレット端末、電子黒板の導入など、
学習環境の変化は私立小学校のみならず公立校にも現れ始めている。
①情報量が豊かになり、教材の蓄積や共有が容易になる、
②情報伝達が迅速になり、授業中の時間効率が上がる、
③子どもの考える過程が見える化する、
とする文部科学省の、小学校のICT教育への取り組みを見ておこう。

小学校のICT活用

教室での取り組み

 2011年(平成23年)4月から全面実施された文部科学省の学習指導要領の総則では、児童生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用できるようにするための学習活動を充実させることを示している。

 同時に発表された「教育の情報化ビジョン〜21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して〜」(以下「教育の情報化ビジョン」)では、2020年度までに、児童生徒に対して1人1台の情報端末の整備を行い、学校教育におけるICTの効果的な活用とデジタル教科書の普及を、目標として掲げた。

 また2010―2012年度には、総務省の「フューチャースクール推進事業」が実施された。これはモデル校にICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析する、3年間の実証研究で、小・中学校・特別支援学校で行われた。

 さらに、フューチャースクールの実証校20校(小学校10校・中学校8校・特別支援学校2校)に対して、文科省の連携により、児童生徒1人1台のタブレット端末、電子黒板、無線LAN、学習用デジタル教科書などの環境が整備された(「学びのイノベーション事業」2011―2013年度)。これによって実験的に、公立小学校の普通教室で、ICTを活用して児童が主体的に学習する試みが行われた。こうした取り組みは一部自治体でも進んでいる。

 私立小学校では、1クラス以上の児童が1人1台のコンピュータやタブレット端末を操作できる環境を整え、ICT活用授業を積極的に推進しているところが多くみられる。

ICT環境の整備はまだ一部

 ICT環境の整備というハード面の進捗状況を、文科省の全国の公立学校を対象にした調査に見てみよう。

 それによれば教育用コンピュータ(タブレット端末含む)1台当たりの児童生徒数は、目標値3.6人に対して、小学校7.2人、中学校6.4人、高等学校5.0人。電子黒板を整備する教室の割合は、目標値1学級当たり1台に対して、小学校8.9%、中学校7.1%、高等学校3.5%となっており、目標には遠い(平成26年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果)。

 運用などソフト面に関しては、OECD国際教員指導環境調査(TALIS)の2013年調査結果によれば、わが国において「生徒が課題や学級の活動にICTを用いる」指導を「しばしば」「ほとんどいつも」行っている教員の割合は9.9%であり、34か国と地域の中で最下位となっている(参加国平均は37.5%。なお、日本は中学校の校長、教員を対象にしたアンケート調査である)。

 一部では先進的なICT活用の取り組みが行われているとはいえ、多くの学校でICT環境の整備から始めなくてはならないのが現状だ。

大切なのはすべての子どもたち

ICTの授業における展開

授業のねらい

 ICTを活用した授業とはどのようなものだろうか。

 具体的には、次のような授業が想定されている。「教員が任意箇所の拡大、動画、音声朗読等を通して、学習内容を分かりやすく説明したり、子どもたちの学習への興味関心を高めたりする……。また、繰り返し学習によって子どもたちの知識の定着や技能の習熟を図ったり、子どもたちが情報を収集・選択・蓄積し、文書や図・表にまとめ、表現したりする場合や、教員と子どもたちが相互に情報伝達を図ったり、子どもたち同士が教え合い学び合うなど双方向性のある授業等を行ったりする……」(「教育の情報化ビジョン」より)。

 学校におけるICTの活用は、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、子どもたちが一人ひとりの能力や特性に応じた学び(個別学習)や、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進することによって「基礎的・基本的な知識・技能の取得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「主体的に学習に取り込む態度の育成」という、学校教育法に定める「学力の3要素」の向上に役立つものとしている。

 この点については、私立小学校はICT導入以前から十分活発に行っている。学習指導要領に待つまでもなく、アクティブ・ラーニングこそ私立校の特色であり、教員主導でしっかりと基礎を学び、教員のリードで児童が自発的に疑問や解答を発言して討論する。そのうえで自分で課題を発見して主体的な学びに向かうように見守る。

 情報機器設備が整い、教員指導体制もあり、児童の学力を教員が把握している私立小学校ではICTにおいてもアクティブ・ラーニング型の手厚い指導が可能だ。

授業の実際

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 「平成24年度 教育ICT活用事例集」(一般財団法人 日本視聴覚教育協会)に収集された事例の一部を表1にまとめた。

 同事例集は、各都道府県や市町村教育委員会を通じて実践事例を募って収集したものだが、教科別には小学校119事例の中では、国語(23.5%)と算数(21.8%)の割合が高く、デジタル教科書やデジタル教材を用いた活用例が多い傾向がみられたという。

 

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 また、全事例218件(小学校119事例、中学校42事例、高等学校28事例、特別支援学校29事例)でのICT活用の意図、ICT機器の活用状況はそれぞれ、図1図2のようになっている。

 活用の意図では、「知識・理解を深める」(26.7%)が最多。次に多いのが「表現を高める」(21.7%)、「思考を深める」(20.0%)である。知識.理解を深めたり、繰り返し練習したりすることによる基礎的.基本的な学習の定着と、思考力や表現力を高める、言語活動を充実させることの2つが大きなねらいのようだ。

 機器の活用状況では、「タブレットPC」(41.7%)が最多、次に多いのが「電子黒板」(35.0%)。平成23年度の実践事例では「タブレットPC」の活用は19.6%だったので、24年度の活用の割合は2倍に伸びている。

 なお、学習スタイルでは、「一斉学習」(41.7 %)が最多、次いで「協働学習」(38.3%)、「個別学習」(20.0%)。平成23年度の実践事例では「一斉学習」(61.5%)、「協働学習」(9.8%)だったので、一斉学習の割合が大きく減っていることがわかる。

ICTを活用した教育の効果

子どもの意識

 学びのイノベーション事業の実証校の児童へのアンケート調査(小学校:平成22年〜25年分)を見てみよう(平成26年文部科学省「学びのイノベーション事業 実証研究報告書」)。

 まず、タブレットPCなどの起動・終了や管理充電、画面操作などの必須操作がすべての学校で全員ができるようになっているなど、実証校の小学生のICT活用スキルは確実に向上していることがわかる。

 小学校第1〜2学年では「たのしくべんきょうすることができた」「もっとべんきょうしたい」「よくかんがえることができた」「ともだちとはなしあうことができた」「ならったことをおぼえることができた」などの項目には全期間を通して、「はい」の回答率が高かった。

 ICTが主体的に学習に取り組む態度や思考力の養成、協働的な学びや基礎的・基本的な知識の取得などに有効な役割を果たしたことがわかる。

 しかし、「じぶんのかんがえをはっぴょうすることができましたか」について「はい」と回答したのは6割強であり、ICTとの相関性は薄い。

 3〜6年生でも、「楽しく学習することができた」「進んで授業に参加することができた」「授業に集中して取り組むことができた」「学習した内容をおぼえることができた」などは全期間を通して、大多数が肯定的な評価をしているが、「自分の考えや意見をわかりやすく伝えることができたと思いますか」「学習した内容を友だちや先生に、正しく説明できたと思いますか」については、肯定的な評価は低い数値だ。

実証の成果

 ICTの活用が、教育にどれだけの成果を上げたかは、まだ判断する段階にないだろう。しかし、「フューチャースクール推進事業」の実証校だった葛飾区立本田小学校校長の筒井厚博氏は、3年間の実証期間を経て「この事業を受けて児童が変わったことは、①意欲的に学習するようになったこと、②情報活用力が大きく伸びたこと、③友達の話を最後まで聞けるようになったこと、④自信をもって発表できるようになったこと等があります」と述べている(「教室にICTがやってきた 本田小学校のフューチャースクール導入から定着まで」NTT出版)。

 ICT教育の流れは今後ますます大きくなっていくだろうが、子どもたちが自ら機器に慣れ、楽しみ、能力を伸ばすために進んで活用するように、ハード面だけでなくソフト面でも課題を一つひとつクリアしていく必要がありそうだ。情報化、グローバル化する社会では、小学校から「ICTセンス」を磨いていく必要がありそうだ。

冊子「スクールダイヤモンド2016年春号」より